2025/09/20
《藤田久美子の旅エッセー》香港の魔窟を垣間見る
映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のロケセット、公開中
九龍半島から香港島を臨む。かつては企業広告が目立っていた夜景だが、文字は無くなり、LEDに変わって光量が増し、さらに美しくなっている。
最初に香港に行ったのは1993年だった。中国に返還される前、とくに九龍城砦を自分の目で見たいと思ったのがその理由だ。
九龍地区にあった啓徳空港は、世界で最もアプローチが難しいと言われた急旋回かつビルをかすめる着陸で知られており、頭上に迫る飛行機の機体も崩れ落ちそうな城砦の建物も強烈に記憶に残っている。
闇社会の拠点として名高いその場所は、既に住民が退去した後だったにもかかわらず異様な空気を纏っており、撮影してはいけないもののような気がして、一枚も写真を撮っていないことが悔やまれる。
その頃、この無法地帯の魔窟を日本では「九龍城(くーろんじょう)」と呼んでいたが、2025年1月に公開されたアクション映画『トワイライト・ウォリアーズ』のサブタイトルが『決戦!九龍城砦』であるように、正しくは九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)と呼ぶべきであると、映画の紹介で初めて知ったのだった。
九龍城は、そのスラム街があった場所を含む行政区の名称であり、あの、複雑に増殖を重ねつつスラム化していった建物は、香港で「九龍城砦」と呼ばれていたのだそうだ。
観光客よりも、地元のおじいちゃんたちが碁のようなテーブルゲームをやっている姿が目立つ。
城砦跡は、建物の解体後、清王朝風の東屋や庭園を配した公園として整備され、香港市民の憩いの場になっている。その一角に『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の映画セットが、2028年5月までの予定で展示されている。
映画の撮影に使ったセットの他、映画で使ったCG映像や映画の一部の上映も楽しむことができる。
映画ファンが楽しいのはもちろん、城砦のなかにあった食堂や食品工場、理髪店、歯科医院などが再現されており、かつての九龍城砦の様子を知る資料としても非常に興味深い。
入場は無料で、15分間の入れ替え制。入口で日本語の音声ガイドを自分のスマホにダウンロードするためのQRコードをもらうことができる。
映画のキーパーソンのひとり、魚のつみれ団子を作っている女性の職場のセット。
1998年にはランタオ島の沖合に新空港がオープンし、近年は香港中心地へのアクセスも便利になっている。かつてのけばけばしさは見ることができないが、活気は残っていると感じた。中国に返還されてからの変容に訪問を躊躇している方もいるかと思うが、香港の底力を十分に感じる再訪だった。
路面のテイクアウト専門店。ミシュランの星をもらったレストランよりも、ここの揚げ餃子が断然美味しかった。
藤田久美子
ライター・エディター・トランスレーター。トレンド誌、ビジネス誌の執筆、編集のほか、IT系を中心に翻訳者として活動。著書に「大事なことはみんなリクルートから教わった」(共著・ソフトバンク文庫)、「松本隆のことばの力」(集英社インターナショナル新書)など。
執筆者プロフィール
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