2024/08/23
【毎日がエンタメ】コラム #3 もっとも嫌われた大統領の映画が大ヒット! 観客たちのストレスがピークに
この夏、韓国の空港に到着した途端、スマートフォンにショートメッセージが届いた。
それは韓国政府からの災害情報だった。
大雨情報か、もしくは北朝鮮によるミサイル発射か。
いずれにしても、良いニュースであるわけはない。
韓国語だったが読んでみると、それは危険を知らせるものではなく、「北朝鮮から汚物風船が飛んできた」というものだった。
なしかに、危険といえば危険だ。
普通に考えても汚物の入った風船が飛んできて頭上で破裂したらそれは悲劇だろう。地上に落ちた風船も汚くないわけがない。
けれど、「いちいち大げさなんだよ」
そう思った。
とはいえ、韓国人によると汚いかどうかは別として、この汚物風船のせいで仁川空港での飛行機の離陸が遅れることもあるらしい。とんでもなく迷惑な話で、韓国人もうんざりしているそうだ。
スマホで瞬時に情報が送られてくる今だからこそ、こんな出来事も事件もリアルタイムで多くの人に拡散される。
では1979年はどうだったのだろう?
1979年10月26日、軍事政権下の韓国で軍を掌握していた朴正熙(パク・チョンヒ)大統領が側近に暗殺された。
スマホのない時代、情報が錯綜したであろうことは想像に難くない。
軍事政権の終焉か?
民主化を期待する国民にとっては“ソウルの春”の訪れでもあった。
ところが、権力の移譲は民主的には行われなかった。
全斗煥(チョン・ドゥファン)や盧泰愚(ノ・テウ)らが決行した12・12の軍事クーデターによって全斗煥が実権を握り、その後、大統領の座に就いた。
民主化を求める国民と軍が衝突したのは、その翌年のことだ。数百人もの犠牲者が出た光州事件で、“ソウルの春”は血の色に染まってしまった。
12・12軍事クーデターの様子を描いた映画『ソウルの春』
公式HP
本日より日本でも公開されるが、当然、勧善懲悪にはなっていない。
劇場で観た観客は強いストレスを抱えることになる。
そのため、韓国での公開時にはスマートウォッチ等で心拍数を計測する「心拍数計測チャレンジ」が大流行した。
韓国でもっとも嫌われているといっても過言ではない全斗煥元大統領のクーデターを描いた映画なのに、映画は空前の大ヒット。去年の韓国の興行ランキングの1位に輝いた。
そんなにストレスを感じるなら観なきゃいいのに。
そう思わなくもないが、それは置いといて、こうした過去もあって全斗煥元大統領には今も虐殺者のイメージがつきまとう。
だが、全斗煥政権下は本当に暗黒の時代だったのか?というと、そうでもない。
その時代を韓国ソウルで過ごした人からは悪い話が聞かれないのだ。
長く続いた夜間外出禁止令の解除に経済成長。プロスポーツも盛んになり、ソウル五輪の招致にも成功した。
知らなかったが、ソウル中心部をグルリと1周する地下鉄2号線が開通したのも全斗煥の時代だそうだ。
けど、今の韓国で全斗煥の功績を口にすることはタブーとされている。
映画を観るため、地下鉄2号線で劇場に向かった人だっているだろうに。
全斗煥をモデルにしたチョン・ドゥガンを演じたファン・ジョンミン。
顔はまったく似ていないのに、その演技は全斗煥の魂が「憑依した」ともいわれた。おそれたファンが「ファン・ジョンミンの身体から邪悪な魂は出ていけ!」と本気で心配するほどだった。
執筆者プロフィール
児玉愛子(らぶこ)
韓国コラムニスト。韓流エンタメ誌、単行本、ガイドブック等の企画から取材、執筆を行う。
メディアで韓国映画を紹介するほか、日韓関係やエンタメコラムを寄稿する韓国ウオッチャー。
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