2024/02/10
【遊感倶楽部】ヤクザに〝歌ウマ〟指南する男子中学生に、なぜか感涙 映画「カラオケ行こ!」
いつから、日本人はこんなにカラオケが上手くなったのか。
かつて、NHK「のど自慢」では、完全にキーを外れていたり、どんどんテンポが遅れて伴奏のバンド(最近はカラオケになった!)が合わせてくれたり。そんな光景は、あちこちの宴会で見られたものだ。
ところが、お酒が飲めない幼い頃から、親とカラオケボックスに行く子どもがいる。さらには、採点機能やピッチをコントロールする機能なんてついた日には、もうみんなそこから楽譜の呪縛から逃れられない。
〝歌ウマ対決〟のバラエティー番組にも洗脳されて、力任せに歌う喜びなんてなくなった。「ドラえもん」のジャイアンみたいに「ボエ~」と耳をふさぐ音痴なんて光景は昭和の彼方なのだ。
またまた前置きが長くなったが、少し前に見た映画「カラオケ行こ!」が、そんな世相を反映していて面白かった。
ヤクザが中学生に“歌ウマ”の歌唱指導を請う。人気漫画原作の世界観は損なわず、笑ったあげくにジーンとくる任侠青春物語になっている。
オーディションを勝ち抜いて中学校の合唱団部長の役を射止めた齋藤潤(とても良い!)をヤクザ役の綾野剛が抑えた演技で盛り立てる。それは役を飛び越えて、これから大きくなっていくであろう俳優・齋藤くんのドキュメンタリーのようでもある。
で、綾野剛のヤクザっぷりが、イケメンでインテリで、気性の激しさは封印気味。これもいまどきだ。どこかニヒルで、ワルになりきれない。そこが、やり場のないもやもやを抱える成長期の中学生と妙にダブる。
ただ、カラオケを歌うときはぶっ飛んでいて、このヤクザ、どうしてもX JAPANの「紅」を上手く歌うことにこだわっている。
「クレナイ、ダーッ!」の絶叫を何度も聞かされることになる合唱団部長クンは、「選曲ミスです」と冷ややに告げるも、この曲だけはゆずらない。そのワケが物語の通奏低音のように貫かれていて、なかなか楽しい。このヤクザ、とんでもない音痴ではないところにリアリティーがある。
近々、組のカラオケ大会があり、そこで最下位になると、組長からおそろしい〝制裁〟が待っている。中学生に教えを請うのは、そのためなのだが、「何を注文してもいいよ」といわれ、しぶしぶ指導に付き合う中学生が必ず「チャーハン」を平らげる様子に、疑似親子のような、あるいはモラトリアムな時間をボックスの中で共有する同志のような連帯感が漂う。
さて、終盤に中学の合唱コンクールとヤクザのカラオケ大会が同じ日となり、思いが交錯する場面が超エモい! 「紅」を聴いてこんなに胸がアツくなるとは思わなかった。
エンディングでは、Little Glee Monsterがカバーした「紅」が流れる。「紅」はまぎれもない青春ソングだったのだ。
■映画「カラオケ行こ!」公式HP
写真は「映画『カラオケ行こ!』公式ビジュアルブック」(KADOKAWA刊)
執筆者プロフィール
中本裕己
1963年、東京生まれ。関西大学社会学部卒。夕刊紙編集長を経て、記者に出戻り中。ゴシップから真面目なインタビューまで、芸能取材を中心に夕刊紙記者歴36年。難しいことはわからない。引き出しもない。深みはない。でも面白いことへのアンテナは敏感。著書に『56歳で父に、45歳で母になりました-生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記-』。日本レコード大賞審査委員。浅草芸能大賞専門審査委員。
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