2024/01/26
《藤田久美子の旅エッセー》オルセー美術館(パリ)でもうすぐ閉幕。ゴッホが亡くなる直前2か月の間に残した作品群。「Van Gogh in Auvers-sur-Oise. The Final Months」
2023年11月に訪れたオランダ・アムステルダムのゴッホ美術館で、いちばんの人気を博していたのは、ポケモンとコラボした企画展のコーナーだった。ゴッホ風に描かれたピカチュウやイーブイやキマワリと一緒に写真を撮りたい子どもたちやカップルで、フロアを一巡りするほどの行列ができていた。
この企画コーナーにこれだけ人が殺到していたのには、世界的なポケモン人気以外にも理由がある。アムステルダムを離れたことのなかった、ゴッホの絶筆と見做されることの多い「カラスのいる麦畑」も、近年の研究により絶筆と認定された「木の根と幹」も、この美術館にあるはずの作品が、パリのオルセー美術館に行っていたからだ。
2023年はフィンセント・ファン・ゴッホの生誕170周年にあたり、ゴッホ美術館とオルセー美術館の共同で企画された「Van Gogh in Auvers-sur-Oise. The Final Months(オーヴェル・シュル・オワーズのゴッホ。最後の数カ月)」は、5月~9月までゴッホ美術館(アムステルダム)で開催されていた。
その後、10月からはオルセー美術館(パリ)で、ゴッホの最晩年2か月ほどの間に制作された74点の絵画のうち48点と、33点の素描のうち25点が展示されている。
「木の根と幹」ヴァン・ゴッホ美術館蔵
アルルでのゴーギャンとの共同生活の後、精神を病んだゴッホが静養のために移り住んだオーヴェル・シュル・オワーズで描いたゴッホの集大成とも言うべき作品群だ。まるで描きあがったばかりで絵の具が乾いていないかと思うほどの、生命力に溢れた絵画の数々は、オルセー美術館収蔵のルノワールもモネも、他の名画が色褪せるほどの迫力である。
この企画展では、ゴッホの死因について多くは語っておらず、また、研究者の間で他殺説は否定されているが、小説や映画で語られるように、こういった作品を残した直後に自ら命を絶ったとは信じがたい。
色彩も筆致も、これぞゴッホという作品ばかりの展示である。2024年2月4日まで。
藤田久美子
ライター・エディター・トランスレーター。トレンド誌、ビジネス誌の執筆、編集のほか、IT系を中心に翻訳者として活動。著書に「大事なことはみんなリクルートから教わった」(共著・ソフトバンク文庫)、「松本隆のことばの力」(集英社インターナショナル新書)など。
執筆者プロフィール
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