コラム

2024/01/10

【食い意地編集者 脳内日記 ~こんなことばかり考えて食っていた~】第3回 あざと可愛女子の作法

現役時代は情報誌の飲食店トレンド情報や、青年コミック誌の国民的グルメ漫画などを担当。たいした美食家じゃないけど食い意地だけは、だれにも負けない? そんな食い意地編集者が、どこにでもあるファミリーレストラン、ファストフードチェーン、コンビニフードから、スーパーの調味料棚、デリバリー弁当まで、だれもが毎日、気軽に食べている〝あれ〟を食べながら考えた、食うことに関するあれこれを、つれづれなるがまま綴ります。
ただの美味い店ガイドじゃない! これぞ持続可能なグルメ情報?

 

《第3回》 あざと可愛女子の作法

「昭和のオヤジなので、飲み会のとき、割り勘の支払いには男女差をつけるべきだと思っている」と言ったら、どうなるか?
 飲食量に差があるのだから合理的な受益者負担、と言う人もいれば、女性は経済力が劣ると決めつけていて差別的、と怒る人もいるだろう。
 
「昭和のオヤジなので、女性と食事したら、自分がまとめて支払うようにしている」
 なら、どうか? こうなると賛同の声のほうが多いのではないか?
 
 若いころなら友だちと彼女の線引きを演出するため、あるときから支払い方を変える、などという心理戦もあるが、こちらが歳をとってジジイになってくると、そーゆー駆け引きとは関係なく、当然、オヤジが支払うだろ、というシチュエーションが増えてくる。それは、それでいいのだが、女性側にも遠慮があって「あ、おいくらお支払いすればいいですか?」なんて訊かれることも多い。いいよいいよ、これくらい、と、さえぎって、それで、あっさり引き下がってくれたら、型通りお約束の〝儀式〟として、こちらも演じるのだけど「いえいえ、それでは……」と、もう1ターン食い下がられると、とたんに困惑する。
 
 なかにはバッグから財布を取り出してみせる女子までいる。
(この子は、よっぽどオレに借りを作りたくないのか?)
(オレが、これしきのことで恩着せがましく口説いてくると心配しているのか?)
 頭が混乱する。



 そこで編み出されたのが〝端数割り勘〟と、私が名づけた支払い方法だ。
 ふたりで1~2万円程度、現金で支払うカジュアルなお店。そういうお店で軽く食事するくらいの気楽な相手の場合、端数をピッタリ支払いたいテイを装って、
「53円持ってない?」
 と、下1~3桁の端数を出してもらう。あるいは、自分の小銭を出して、なお、支払い額に足りない分の端数を補ってもらう。
 
 千万の桁は出しているので実質的には、ほぼ、こちらが支払っているのだが、女性も全額出してもらったわけではない、と考えることで気が軽くなる。
「そんなケチ臭いことするなら、万札で払って『釣りはいらない』とか言っとけよ」
 と悪友どもはけなすが、女性には、けっこう好評(だと自分では思っている)。
 手慣れてくると、こちらの伝票をのぞき込んで「78円あるよぉ」とか言ってくる子もいる。これが、けっこう心地いい(笑)。
 
 では、お誕生日お祝いとかクリスマスとか、気の張るお店に行ったときは、どうするか? 当然、こんな店に連れて来ておいて割り勘にするはずがない。
「ごちそうになって、いいんですか?」
 と訊くのも、わざとらしく見える。かといって、当然のように席を立たれるのも、なんだか、ものたりなく感じてしまう。オヤジ心は複雑なのだ。
 
 絶対的正解を教えてくれたのは、タレントのHちゃんだった。
食い意地編集者 脳内日記 あざと女子 和田守弘
 
 彼女は、こういうシチュエーションでの食事に誘うと、いつも、とても気の利いた小さなお菓子を持ってきてくれるのだ。食後のコーヒーとプティフールを楽しんだ後で「今日はごちそうさまでした。すごく美味しくて楽しかった」と、小さなお菓子の手土産を渡してくれる。そして、とびっきりの笑顔。
 
 自分も支払うような小芝居はしない。当然のような顔もしない。
 これこそ完璧なあざと可愛じゃないか!

執筆者プロフィール

和田守弘

雑誌編集者。
大手出版社でグルメ漫画、情報誌のグルメガイド、飲食トレンド分析記事などを担当した食い意地編集者。
独立後、制作会社を立ち上げ、飲食店紹介記事、コラムなどの執筆をしている。

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