2024/01/13
【遊感倶楽部】この世に居たことがすごい/ドキュメンタリー映画「シーナ&ロケッツ 鮎川誠〜ロックと家族の絆」
毎年、誰かがこの世に生まれ、誰かがこの世を去る。とくに今年は年頭から災害や不慮の事故で命を落とした方が多く、列島が悲しみに包まれた。多くの人が亡くなると、その人数に圧倒されて言葉を失い、ひとりひとりの名前のある尊い命をつい見落としそうになるほどだ。
統計を取ったわけではないが、感覚的に言うと、昨年から今年にかけて有名人の訃報があまりに多いように感じる。昨年12月だけでも、チバユウスケ(55歳、元「ミッシェル・ガン・エレファント」)、島崎俊郎(68歳、タレント)、木戸修(73歳、元プロレスラー)、錣山親方(60歳、元関脇寺尾)、キラー・カーン(76歳、元プロレスラー)、坂田利夫(82歳、お笑い芸人)…。
※カッコ内は没年齢。名前が看板のような方ばかりなので、あえて敬称を略す。
さらに、12月30日には、歌手の八代亜紀が73歳で亡くなっていたことが、年が明けてから発表された。みなさん早すぎる。
こうなると、もうすぐ亡くなって1年のギタリスト、鮎川誠(2023年1月29日没)のことを遠くに感じてしまう。
昨年8月に公開されたドキュメンタリー映画「シーナ&ロケッツ 鮎川誠〜ロックと家族の絆」は、胸に迫った。私はコアなファンではないが、ずーっと気になるカッコいい存在だった。
公式HP(画像は公式HPから)
映画は70年に博多で生まれた伝説のバンド、サンハウス時代の鮎川から丹念に追う。結婚して上京し、妻シーナをボーカルに据えたシーナ&ロケッツで勝負に出る。アルファレコードから発売されたアルバム『真空パック』は何度も何度も聴いた。まだ洋楽が優っていた頃に、日本人離れしたソリッドでポップでセクシーなバンドだった。
意外な証言者が続々と登場してロックなストーリーが紡がれてゆく。3人の娘の育ち方も素晴らしい。映画の後半でシーナが亡くなり、終盤には鮎川も。しかし、湿っぽい場面はほんの少し。
強く印象に残ったのは、鮎川を敬愛してやまない甲本ヒロトの言葉だ。甲本は、岡山在住の素人だった頃、ラジオ出演する鮎川の入り待ちをして、“ロック好き少年”というだけで鮎川に肩を抱かれてそのまま一緒にラジオ出演したという。上京してからは、鮎川が住む街で同じ空気を吸いたいからと下北沢の珉亭でアルバイトをしていたそうだ。その最もショックを受けているであろう甲本ヒロトが鮎川の死についてこう語るのだ。
「居たことがすごい。居たことに比べれば、居なくなったことは大したことじゃない」
この映画、もう上映館は少なくなったが、今後目にする機会があったら、ぜひ、彼が日本のロック界に「居たこと」の意味をじっくり考えながら見てほしい。
執筆者プロフィール
中本裕己
1963年、東京生まれ。関西大学社会学部卒。夕刊紙編集長を経て、記者に出戻り中。ゴシップから真面目なインタビューまで、芸能取材を中心に夕刊紙記者歴36年。難しいことはわからない。引き出しもない。深みはない。でも面白いことへのアンテナは敏感。著書に『56歳で父に、45歳で母になりました-生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記-』。日本レコード大賞審査委員。浅草芸能大賞専門審査委員。
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