2024/10/13
《藤田久美子の旅エッセー》伝統的な製法を復活させた新しい蒸溜所。アードナホーはショップもカフェメニューも充実
アードナホーは、ゲール語で「小高い丘」の意。アードナホー蒸溜所では、ピート層と岩盤に濾過されたアードナホー湖の水を使用している
<前回からの続き>
スコットランドにおけるウィスキーの蒸溜所の設立はスコットランド政府アルコール・タバコ製品規制庁が審査を担当している。
設立に際しては、スコッチウィスキー法が定めるスコッチウィスキーの定義に沿ったウィスキーを、環境規制に則った施設で製造することが求められる。
アードナホーは2016年に設立許可を取得し、2018年から稼働を始めた新しい蒸溜所だ。エジンバラに本社を置く人気のボトラーが満を持して造った蒸溜所である。
スコッチウィスキー法により、スコッチを名乗るためには3年以上の熟成が必要なため、発売は2024年から。この蒸溜所で作られたウィスキーの発売前、2019年からビジターセンターはオープンしている
Independent bottlerに対応する日本語として使われる、独立瓶詰業者、独立系ボトラー、ボトラーは、いずれも蒸溜所(distilleryディスティラリー)からウィスキーを樽で購入し、瓶に詰める業者のことだ。
ボトラーズというカタカナは、bottlers 業者全体を指す場合と bottler’sボトラーがボトリングした製品という意味で使われている場合がある。
スコッチウィスキー法は、スコッチウィスキーを樽でスコットランドから持ち出すことを禁じている。スコッチウィスキーのボトラーは、蒸溜所同様、そのすべてがスコットランド内にある。
造らずに詰めるだけ、ではない。もちろん。
ボトラーは、蒸溜所から購入した原酒を自社の樽で熟成させたり、他のウィスキーとブレンドしたり、特別なラベルを作ったり、ウィスキーに付加価値、多様性、稀少性を与える。ボトラーのウィスキーが、蒸溜所オフィシャルのものより高額で取引されることが多いのは、そういう理由からだ。
ちなみに、ハンターレイン社から発売されたウィスキーには、日本での取引価格が150万円を超えるものもある。
アードナホー蒸溜所の象徴、蒸溜した蒸気の冷却に使用されるワームタブと呼ばれる装置
ハンターレイン社が運営するアードナホー蒸溜所は、ブルックラディ(蒸溜所巡りその3で紹介)のマスターディスティラリーだった「伝説の」という接頭語付きで語られる腕利きの人物をプロダクションディレクターとして迎え入れ、伝統的な製法で蒸溜を行っている。
その一例としてあげられるのが、ワームタブの使用である。時間をかけて冷却することにより薫り高く風味豊かな酒になるが、生産性が低いため、現在、採用している蒸溜所はアイラ島内ではアードナホーだけだ。
ビジターセンターの広々としたショップには、ハンターレイン社とその兄弟会社ダグラスレイン社のボトラーズウィスキーもずらりと並ぶ。ブランドグッズ、ウィスキー関連書籍、チョコレートや燻製したナッツなどのウィスキーにぴったりなおつまみも揃っている。
ハンターレイン社がボトルで販売しているウィスキーを樽から試飲できるコーナー、スイーツや軽食も楽しめるカフェも併設されている。
ハンターレイン社のブレンデッド・ピュア・モルトの樽
おとうさんが、家族を連れて訪問するなら、アイラ島内一押しの蒸溜所だ。
藤田久美子
ライター・エディター・トランスレーター。トレンド誌、ビジネス誌の執筆、編集のほか、IT系を中心に翻訳者として活動。著書に「大事なことはみんなリクルートから教わった」(共著・ソフトバンク文庫)、「松本隆のことばの力」(集英社インターナショナル新書)など。
執筆者プロフィール
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