2025/10/24
ある編集者のつぶやき #43 日本史上最悪の熊害は三毛別――では「第二の惨劇」を知っていますか?
1915年、北海道苫前町。開拓の地に突如現れた一頭の巨大なヒグマが、冬の集落を襲った。
7人が命を落とした「三毛別羆事件」は、いまなお「日本史上最悪の熊害」として語り継がれており、ネットフリックスがドラマ化するという。
だが、この事件の陰に、ほとんど語られぬ「第二の惨劇」があることを知る人は少ない。
その名も「石狩沼田幌新(ほろしん)事件」。
三毛別からわずか8年後の1923年、大正の終わり。北海道雨竜郡沼田町の山あいを、祭礼帰りの人々が提灯の明かりを頼りに歩いていた。突如、その闇の奥から、音もなく一頭のヒグマが現れた。
最初に殺されたのは13歳の少年、村田幸次郎。暗闇の中、悲鳴と地響きが交錯した。ヒグマは執拗に村田一家を襲い、必死に逃げ帰った家にまで侵入、母ウメを連れ去ったという。
数日後にようやく討伐されたが、その過程で2人のハンターが死亡。4人死亡、4人怪我という甚大な被害をもたらした。死んだヒグマの腹の中にはザル一杯分の人骨片があったと伝えられる。
幌新事件は、三毛別に次ぐ熊害として位置づけられる。
だが、これほどの惨事にもかかわらず、なぜか長らく忘れられてきた。
三毛別には、『慟哭の谷』の木村盛武という執念の記録者がおり、彼の著書は今も読み継がれている。幌新事件を取材した記録者もいたのだが、残念ながらその著作は絶版だ。本事件の記録は町史の片隅にとどまり続けていた。
しかし2023年、事件からちょうど100年。地元では初の慰霊祭が開かれた。
子孫の証言で「生き残ったはずの人」が再び記録に戻され、町史に刻まれた。風化しかけた悲劇が、今ようやく語り直されつつある。
ヒグマは今も北海道の森を歩いている。人の記憶が薄れるとき、自然はもう一度、その存在を思い出させる。
幌新の闇に灯った提灯の光は、文明と野性のあわいを照らす、100年前の「警告灯」なのかもしれない。
プロフィール
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ある編集者
大学卒業後、大手出版社に勤務。
子供の頃から漫画が大好きだったが、いざ大人になると小説の編集にかかわり、多くの作品を世に送り出すことに。
ここでは思ったことを率直につぶやいてみたい。
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