コラム

2024/08/05

ネコろんで読む英語コラム (18)スポーツ通訳の思い出

この夏はパリ五輪で大盛り上がり。
日本人って本当にスポーツが好きなんだなぁと実感する。
 
実はここだけの話、私はスポーツ通訳をしていたことがある。
 
英語コラム ネコろんで読む英語コラム 明場由美子 スポーツ通訳 レオ

 
今から30数年前、まだ若かった私は通訳を目指して経験を積んでいた。
別にスポーツに特化した通訳になりたかったわけではない。当時はまだペーペーだったのでとにかく来た仕事をありがたく引き受けていただけなのだが、たまたま一度メジャーな大会を担当したことで次から次へとスポーツイベントのオファーが舞い込んでくることになった。
 
ある時、アジア競技大会の競技付き通訳というのを担当した。
アジア競技大会はオリンピックのアジア版で、日本をはじめアジア各国が参加する国際的なスポーツイベントなのだが、はたして英語通訳の出番はあるのだろうかという一抹の不安があった。
 
アジアで英語が公用語の国といえば、香港、シンガポール、フィリピンくらいで圧倒的に多いのは中国勢。で、中国語の通訳はというと、プロが数名であとは満州引き上げ組のボランティアのお年寄りで回すという心もとなさ。
念のために事務局側に確認すると「各国チームそれぞれ最低一人は英語通訳を連れてくることになっている」という返答が。
 
だったら大丈夫かと安心していたら、とんでもない展開が待ち受けていた。



なんと旧ソビエトの国々が参加していたのである。
キルギスタン、カザフスタン、タジキスタン、といった国々がソビエト崩壊後アジア圏に属する扱いになりこぞって参加していた。
 
旧ソビエトだから当然どの競技も強い。
私が担当したフェンシングは特に旧ソ連勢が圧倒的に強く、3位までほとんどすべて彼らで占められることに。そして当然のことながらみんな母語がロシア語で英語のえの字も話さない。
 
各チームに1人いるはずの英語通訳はどこを探しても見当たらず、私たち通訳者は右往左往。協会側が手配していたロシア語通訳者は数名しかおらず到底間に合わない。身振り手振りでなんとかコミュニケーションをとるという、通訳の意味をなさない悲惨な状況が続いた。
今思い出しても冷や汗が出る。
 
オリンピックはアジア大会より遥かに大規模な大会なのでそういうことはないだろう(と思いたい)が、華やかなイベントの影で駆けずり回っている裏方の人たちに思いを寄せる私なのであった。

執筆者プロフィール

Yumi

English Boot Camp代表。英語発音コーチ、著者。東京在住の大阪人。
2010年に開設した英語学習者向けのYouTubeはチャンネル登録者数が19万人を超える。
小学生の時にゴダイゴのタケカワユキヒデのファンになり英語に興味を持つ。
思春期は洋楽(ロック)とアメリカ文化に傾倒し、いつしか英語を教えるように。
著書に『ネコろんで学べる英語発音の本』がある。タイトルからもわかるように大の愛猫家。

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