2024/01/25
ある編集者のつぶやき #2 作者の嫉妬心
前回、隆慶一郎著『柳生非情剣』について“隠し剣”シリーズに匹敵する面白さ、と書いたが、当の藤沢周平が直木賞の選評ではたいへん辛口だったのが不思議だった。
穿った見方になるが、やはり選考委員は自身の書くものに近い世界の書き手には厳しいのだろうか。苦労人で聖人のようなイメージのある藤沢周平にも嫉妬心があったのだろうか、と想像するのも面白い。
嫉妬心のない人間はいないし、まして新しい才能に出会った時に嫉妬心が燃え滾(たぎ)らない作家などは信用できないのではないだろうか。
ちなみに、藤沢も選評で言及している「跛行(はこう)の剣」には剣術時代小説としては確かに型破りなところがあり、隆慶一郎らしさが存分に感じられた。
同性愛者だった家光が寵愛した柳生友矩の「柳枝(りゅうし)の剣」も、あまり取り上げられることのない人物の性格や背景を十分に考慮し、いかにも友矩らしい剣術に仕上げている点が素晴らしかった。
直木賞の選考委員たちの選評は、どれも次作を期待していたような書きぶりだったが、まさか隆慶一郎が66歳で亡くなるとは誰も思っていなかったことだろう。
隆は元々脚本家で100本以上の映画の脚本を担当した。小説家としての活動期間はたった5年ほどと短く、早くに亡くなられたのが本当に残念でならない。
隠し剣シリーズ
プロフィール
ある編集者
大学卒業後、大手出版社に勤務。
子供の頃から漫画が大好きだったが、いざ大人になると小説の編集にかかわり、多くの作品を世に送り出すことに。
ここでは思ったことを率直につぶやいてみたい。
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