2024/02/11
【ジェリー・ヤンの世界撮りっぷ】コロナ禍でのロックダウンを経て、僕は再びパリの街に恋をした
フィルムの世界に戻ることはは2020年最初のロックダウンの最中に決めた。
パリの最初のロックダウンは、今思うと滑稽に思えるほど厳しかった。
狭いアパートから外に出られるのは毎日たったの一時間だけ。出かけるたびに誓約書を書かされた。
外出が許される条件は「一人の運動」「スーパーへ買い物」「犬の散歩」あるいは「必要不可欠な病院通い」のみだった。誓約書がない、あるいはその理由がない外出は、罰金を課せられた。
たとえ条件がそろって堂々と外に出られたとしても、移動範囲は自宅を中心にした半径一キロの円形の範囲以内。ルールが公表されたとき、僕はテーブルの上に地図を広げて、コンパスでその円を描いてみた。
やっぱりルコさんが入ってない。
ずっと、すぐ側にいるように感じていたけど、それは大きな間違いだった。
なんとなくフラリと行ける距離だと思っていたが、実は1.2kmもあったのだ。
「まぁ、どうせ閉鎖しているし」
そう自分に言い聞かせて、ルコさんとの再会を楽しみにするほかなかった。
©Jerry Yang
20年前に台湾の軍隊を出て以来、僕は初めて移動の自由を奪われた。
最初は4週間と政府は発表していたけど、結局6週間に、さらに8週間に延長された。
お隣さんのワンちゃんを皆が順番に借りることになり、犬は一日に8回も散歩させられた。外に出るのを嫌がる犬の顔を僕は初めて目にした。
フランスのスーパーは日本と比べて食材が乏しいのは昔から分かっていたけど、でもいざ食材が調達できなくなると、まるでアメリカの食卓に戻ったみたい。泣きたかった。
毎日午後6時、医療関係者の応援のために、みんなが窓を開けて拍手と喝采をしていた。
終わったあとの静けさが虚しさに変わり、日々、大きくなってきた。最後は部屋の中の空気を全部吸い込んで、僕は窒息しそうになった。
たぶん誰でもいい、どんな感じでもいいから、とにかく温もりがすごく欲しかったんだと思う。
綺麗で繊細な温もりじゃなく、荒くてがさつでもいいから。
ロックダウン解除の日は土曜日だった。
僕は躊躇なく、行きつけのサンジェルマン・デ・プレのライカ専門店に行って、新品のフィルムカメラのライカM-Aを買った。
©Jerry Yang
M-Aにメーターはついてない。入れたフィルムのISO、レンズの絞り、そしてシャッターダイヤルの数字で露出を決める。すべてマニュアルで。
つまり、写真を撮ることの原点だ。
最初の一巻はコダックさんのPortra 160だった。
近所のラボのウェブサイトから現像したものをダウンロードして開いた瞬間、酸欠だった部屋に大量の光が注ぎ込んできた、一気に。
©Jerry Yang
まるで別人格のパリに見えた。柔らかい空、温かい土、優しい新緑、さり気なく優雅な建物、そしてやっと解放されたパリジェンヌとパリジャンたちの自然な表情…
それ以来、フィルムとデジタルを並行して、僕とパリとの恋愛も二倍楽しくなった。
プロフィール
Jerry Yang(ジェリー・ヤン)
フランス・パリを拠点とするベンチャーキャピタル投資会社「HCVC」のゼネラル・パートナー。
台湾の高雄で生まれ育ち、起業家として台湾からシリコンバレーへ。渡仏した後、ベンチャー投資を行う。
趣味で世界各地を旅行し、撮影した写真が「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたこともある。
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