日本エンタメ

2024/08/24

ある編集者のつぶやき #34 出刃包丁を持って、犬を殺した犯人をしつこく追いかけるソープ嬢の物語…映画『幻の湖』は大傑作か、世紀の珍作か

戦後最大の脚本家と称される橋本忍は、黒澤明監督『羅生門』でデビューし、『七人の侍』『白い巨塔』『砂の器』など数々の名作を手がけた。
 
そんな彼が監督・脚本を務めた『幻の湖』(1982年公開)という作品がある。

 
映画『幻の湖』予告編(←結構、長い)

 
この映画のあらすじはかなり珍妙だ。
 
まず舞台は滋賀県琵琶湖西岸。雄琴のソープランドで働く道子(源氏名「お市」)は、愛犬シロとジョギングをするのが日課。
ところが、シロが何者かに殺されてしまう。犯人は東京の作曲家・日夏圭介。怒りに燃える道子は復讐を決意し、東京へ向かう。
 
日夏をジョギング中に追い詰めようとするも、最初の試みは失敗。
一方で道子は琵琶湖の葛篭尾崎(つづらおざき)で戦国時代の浅井長政の妻お市と侍女みつの悲劇を語る、長尾という男に出会う。
長尾はみつの魂を鎮めるために横笛を吹いており、自身はNASAの宇宙科学者として大気圏外に飛び立つ計画を持っている。
 
物語の終盤、道子はソープランドに客として現れた日夏と対決。出刃包丁を腰に隠し持ち、延々と走って彼を追い詰め、琵琶湖大橋の上でついに復讐を果たす。
シロとのジョギングがここで生きてくるわけだ。
 
その瞬間、ロケットが飛び立ち、長尾は宇宙空間から琵琶湖を見下ろし、琵琶湖大橋に見立てて横笛を置いてお市(それは道子のソープ嬢としての源氏名でもある)とみつの魂を鎮める、という壮大な結末が描かれる。



ここまで読んでくれてありがとう。
いま僕は、読者に対して「何を言っているのかわからねーだろうが」というポルナレフ状態だが、このあらすじは概ね正確だ。
ある編集者 何を言っているのかわからねーだろうが ポルナレフ ジョジョの奇妙な冒険
引用元:『ジョジョの奇妙な冒険』

 
当時の観客もどう捉えていいかわからなかったようで、興行的には大失敗。しかし、僕はこの作品には見逃せない魅力があると感じ、実は大傑作なんじゃないかと思っている。
 
実は当時、橋本忍が飼っていた犬を亡くし、その悲しみが投影された作品だと言われている。
犬を殺されたぐらいでここまでしつこく犯人を追い詰めるなんて変だ、と感じる人も多いかもしれないが、僕は本心からこう思う。
 
愛犬を殺されたらそりゃ犯人を◯しに行くだろう。
 
この映画は犬を飼った経験があるかどうかで評価が分かれるかもしれない。
僕自身も(にわかだが)愛犬家なので、この作品に特別な魅力を感じている。なお、うちのフレブルが世界一かわいいのは、まぎれもない事実である。
 

プロフィール

ある編集者

大学卒業後、大手出版社に勤務。
子供の頃から漫画が大好きだったが、いざ大人になると小説の編集にかかわり、多くの作品を世に送り出すことに。
ここでは思ったことを率直につぶやいてみたい。

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