2026/08/15
《藤田久美子の旅エッセー》ピザ発祥の地であるナポリの混沌
ナポリ空港に到着し、宿までのタクシーで驚いたのは強引な運転だ。
すれ違うどの車も傷だらけで、そうなるはずと納得できる運転を誰もがする。ナポリに板金工場はないのだろうと想像したくなるほど、駐車してある車はどれも傷だらけで修理した様子はない。

ドアがへこんでいる車のそばにパトカー。交差点で左折同士(日本なら右折)の車が接触し、そのまま何事もなかったように走り去る様子も目撃した。
ナポリには、イタリア国内で唯一公認されているバンクシーのストリートアートがある。『ピストルを持つマリア』というタイトルがつけられており、頭の上に後光ではなくピストルが描かれている。
聖なるものと治安問題の矛盾が隣り合わせているナポリを風刺した作品とされている。つまり、ナポリはそういう街だ。

現在はガラスで保護されているバンクシーのストリートアート。観光地のど真ん中なのに、興味を示す人はほとんどいない。
ピザの発祥がナポリであることは国際的に認められており、1938年にフランスで初版が発刊された世界最高峰とされる食と料理の事典『ラルース・ガストロノミック』のpizzaの項にも、「ナポリに起源を持つ人気のイタリア料理」と記述されている。
前回、大きく焼いてカットして切り売りするニューヨークスタイルのピザを紹介したが、イタリアからの移民がアメリカに持ち込んだピザは、何事も慌ただしいニューヨークで時間もお金もない移民たちが食べやすい形に進化した。本場、ナポリのピザはそれとはだいぶ趣が異なる。
ナポリのピザは、ひとり1枚をナイフとフォークを使って食べるのが基本。
メニューは、トマトソース、ニンニク、オレガノだけのマリナータか、トマトソースにモッツアレラチーズのスライスとバジルをのせたマルゲリータで、ユネスコの無形文化遺産に登録された「真のナポリピッツァ」は、それ以外の具をのせることを認めていない。「円形」で、「その直径は35cmを越えてはならない」と国際規約で定められているそうだ。

トマトの赤、モッツァレラの白、バジルの緑がイタリアの国旗を表す。19世紀にマルゲリータ王妃がナポリを訪れた際に献上され、名前の由来となっている。
原料や焼き方にも厳しい基準がある。ペパロニもベーコンものっていないピザが美味しいのは、小麦とトマトが違うからだ。小麦粉はグルテン量やたんぱく質量が定められているし、使う水の温度やph、トマトの品種もモッツァレラチーズの産地にも規定がある。
日本にも認定されたピザが食べられる店が各地にあるので、“混沌の街”ナポリまで行かなくても堪能は可能である。
藤田久美子
ライター・エディター・トランスレーター。トレンド誌、ビジネス誌の執筆、編集のほか、IT系を中心に翻訳者として活動。著書に「大事なことはみんなリクルートから教わった」(共著・ソフトバンク文庫)、「松本隆のことばの力」(集英社インターナショナル新書)など。
執筆者プロフィール
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